なぜ私は「まず社長が生成AIを使ってみる」ことを勧めるのか

今、生成AIを使わずに仕事をしてくださいと言われたら、正直かなり困ります。

調べものをする。文章を書く。プレゼン資料を作る。知らないことを学ぶ。新しい事業について考える。自分の考えを整理する。

私は日々、こうしたさまざまな仕事に生成AIを使っています。

独立して会社を経営するようになった今、これらをすべて人力でやっていたら、とても時間が足りません。

ただ、私が中小企業の経営者に「まず自分で生成AIを使ってみてください」とお勧めする理由は、仕事が速くなるからだけではありません。

生成AIを自分で使うことで、経営の選択肢そのものが変わる。

私は、こちらの方がずっと重要だと考えています。

「外注する仕事」だと思っていたことが、自分たちでできた

私自身、生成AIを使い始めてから、「こんなことまでできるのか」と何度も驚きました。

例えば、自社のパンフレットやチラシです。

当初は、自分で内容のゲラを作り、それを印刷会社に持ち込んで仕上げてもらうつもりでした。デザインまで自分で完成させようとは考えていませんでした。

ところが生成AIと一緒に内容を考え、構成を作り、表現を直し、デザインを検討していくうちに、最終的な制作物まで自分たちで作れてしまいました。

ここで私が面白いと思ったのは、「パンフレットを作る時間が短くなった」ことではありません。

「これは外部の専門家にお願いする仕事だ」と思っていたものが、「AIと一緒なら自分たちでもできる仕事」に変わったことです。

会社が何か新しいことを始めようとするとき、これまでは「外注する」「社員にやってもらう」「新しい人を採用する」「やらない」といった選択肢が中心でした。

そこに今は、「AIを使って自分たちでやる」という選択肢が加わっています。

生成AIを実際に使っている経営者と、そうでない経営者では、同じ経営課題を前にしても、思いつく打ち手が違ってくる。

私は自分自身の経験から、そう感じています。

新しいものを導入すれば、必ず誰かの仕事が変わる

もう一つ、経営者自身に使ってほしい理由があります。

私は会社員時代、研究所長として200人規模の組織を運営していました。

そこで何度も経験したのが、新しい制度や設備、システムを組織に導入する難しさです。

新しいものを入れれば、必ず何らかの変化が起きます。そして変化が起きれば、どこかで新しい負担を背負う人が出てきます。

これは生成AIでも同じです。

経営者から見れば「AIを使えばこの仕事が楽になる」と思えることでも、現場では入力方法が変わるかもしれません。確認作業が増える人がいるかもしれません。既存の仕組みと併用することで、かえって二重作業が発生することもあります。

そうしたことを十分に考えずに導入すると、経営側は、

「便利なはずなのに、なぜ社員は使わないんだ」

と思ってしまいます。

しかし現場から見れば、「使わない」のではなく、「今の仕事のやり方では使いにくい」のかもしれません。

以前の記事「「ChatGPTを使える人」を増やすだけでは、会社のAI活用が進まない理由」でも書きましたが、AI活用は社員にツールの使い方を教えるだけでは、なかなか組織に定着しません。

新しい仕組みを導入するとき、誰の仕事がどう変わるのか。誰に新しい負担がかかるのか。その負担を組織としてどう支えるのか。

トップがそこまで想像できるかどうかは、導入の成果に大きく影響します。

そのためにも、経営者自身が生成AIを使い、その便利さだけでなく、思ったような答えが出ないことや、人間が補わなければならない部分まで体感しておくことには大きな意味があると思います。

AIは、いつも正しい答えを出すわけではない

私は生成AIを、考えを整理するための「壁打ち相手」としても頻繁に使っています。

自分とは違う視点を出してもらう。選択肢を挙げてもらう。反対意見を出してもらう。メリットとリスクを整理してもらう。

これは非常に便利です。

一方で、使えば使うほど、「最後は人間が判断しなければならない」とも感じます。

経営上の物事を判断するときには、実にさまざまな判断軸があります。

短期的な売上を優先するのか。長期的な信用を優先するのか。効率なのか。顧客なのか。社員なのか。将来への投資なのか。

何を重視するかによって、同じ問題でも答えがまったく逆になることさえあります。

生成AIは非常に優秀ですが、ときとして限られた判断軸から、もっともらしい答えを返してくることがあります。

しかも、その答えは一見とても論理的です。

だからこそ、人間側が、

「本当に見るべきものは、それだけだろうか」

と問い直さなければなりません。

AIが間違っているとは限りません。与えられた問題の中では、正しい答えかもしれない。

しかし経営者には、そもそも問題の捉え方が正しいのかを考える仕事があります。

これは、以前の記事「「日報をAIで作りたい」から始めない。生成AI導入で最初に考えるべきこと」で書いたことにもつながります。AIで何ができるかを考える前に、まず「何を良くしたいのか」を考えることが重要です。

私はAIを意思決定者だとは考えていません。

意思決定のための材料や視点を増やし、自分の考えを磨くための、非常に強力なパートナーだと考えています。

社員だけがAIを使えれば十分でしょうか

もし生成AIを導入する目的が、「社員の作業時間を短縮すること」だけなら、社員がAIを使えれば十分かもしれません。

メールを書く時間が10分から3分になる。資料を作る時間が1時間から30分になる。

それだけでも十分な価値があります。

でも、企業の生成AI活用は、そこで終わらせるにはもったいない。

経営者自身がAIで何ができるのかを知る。

得意なことだけでなく、苦手なことも知る。

そして、AIによって社員の働き方がどう変わるのかを、自分自身の体験として理解する。

そうすると、

「この仕事をもう少し速くできないか」

だけではなく、

「この仕事は、そもそも今までと同じやり方でやる必要があるのだろうか」

という問いが生まれてきます。

その問いから、経営課題に対する新しい打ち手が見えてくることがあります。

AIに詳しい社長になる必要はありません

プログラムを書く必要も、難しいプロンプトを覚える必要もありません。

AIの専門家になる必要もありません。

まずは、自分の仕事の中で一つ使ってみる。

調べものでもいい。文章作成でもいい。今悩んでいる経営課題について、「一緒に考えて」と話しかけてみるのでもいいと思います。

実際に使ってみると、「これは使える」「ここは人間が判断しないと危ない」という感覚が少しずつ分かってきます。

その感覚が、会社としてAIをどう使うかを考える土台になります。

経営者に生成AIを使ってほしいのは、AIに詳しくなってほしいからではありません。

経営の選択肢を増やしてほしいからです。

社員の仕事を少し速くするだけで終わらせず、AIによって自社の仕事や経営をどう変えられるのか。

そこまで一緒に考えること。

それが、Southern Partnersが目指している生成AI活用です。

そして、会社として生成AI活用に取り組むときも、最初から大きな仕組みを作る必要はありません。「なぜ生成AI導入は「小さく始める」とうまくいくのか」では、私たちが小さな実験から始めることを勧めている理由を紹介しています。

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