「ChatGPTを使える人」を増やすだけでは、会社のAI活用が進まない理由
「こんなに便利なのに、なぜ使わないんだろう」
以前、製薬会社の研究所で、紙の研究ノートを電子ノートに切り替えようとしたとき、私は本気でそう思いました。
実験データや化合物を管理しやすくなる。週報や月報も作りやすくなる。
便利になる理由は何度も説明しました。
それでも、使わないんです。
一部の積極的な社員はどんどん使う。でも、大部分の社員は紙のノートから切り替えようとしません。
経営や管理をされている方なら、この感じ、少し分かっていただけるのではないでしょうか。
「便利だから」だけでは、人は動かない
でも、現場の側から考えてみれば当然なんですよね。
使い方が分からず、仕事が遅くなったら困る。
間違ったことを書いたら、直すのが面倒かもしれない。
何より、今のやり方でも仕事はできている。
新しいものに抵抗を感じるのは、ごく自然なことです。
だから、すぐに「今日から全員使え」とはしませんでした。
まず積極的な人たちに使ってもらう。
しばらくすると、その人たちから「これは便利だ」という声が出始めます。そして周囲にも、「どうもあれは便利らしい」という空気が少しずつ広がっていく。
その空気ができてきたところで、SOP(標準作業手順書)を改訂し、電子ノートを使うことを制度として決めました。
すると、実際に使い始めた社員から、
「もう紙のノートには戻れない」
という声が次々と出るようになりました。
人を待っているだけでも変わらない。
最初から力ずくで変えようとしてもうまくいかない。
新しいやり方を組織に浸透させるには、動かすタイミングがある。
これは、この経験から学んだことの一つです。
AIでも、同じことが起きると思っています
生成AIは、「読む」「書く」「調べる」といった仕事を驚くほど速くこなします。
私自身かなり使っていますが、その能力には今でも驚かされます。
一方で、AIは最初からその会社の仕事を知っているわけではありません。
「この会社では何を大切にするのか」
「この仕事はどう進めるのか」
「この場合は誰がどう判断するのか」
こうしたことが分からなければ、本当に仕事に役立つ使い方はできません。
そして、どんなに優れたAIでも、現場が「これは役に立たない」と感じたものは、決して浸透しない。
これは、これまでの経験から断言できます。
だから現場を見る。
ただし、現場の言う通りにすればいいわけでもありません。
現場には現場から見える景色があり、管理側には管理側から見える景色があります。
私はこれまで、両方の立場から会社を見る経験をしてきました。
だから、双方の話を聞きながら、
「実際には何が起きているんだろう」
「では、どこを変えればいいんだろう」
と考える。
AIを会社の業務に導入するときにも、結局ここが重要なのだと思っています。
最初にAIを理解してほしいのは、経営者です
だから私は、会社のAI活用を社員へのChatGPT研修から始めることには、少し違和感があります。
最初にAIを触り、その可能性をある程度理解してほしいのは、むしろ経営者です。
そして、
「これは、自分の会社の仕事を変える力がある」
と思えるものを一つでも見つけてほしい。
新しい仕事のやり方を組織に浸透させるには、時間も労力もかかります。
社員が思ったように使ってくれないこともあるでしょう。
そのとき、経営者自身に確信がなければ、
「やっぱり、うちにはまだ早かった」
で終わってしまいます。
でも、自分の中に「これはやった方がいい」という核があれば、
「なぜ使われないんだろう」
「では、次はどうすればいいだろう」
と次の手を考えられます。
電子ノートのときも、最初からみんなが歓迎してくれたわけではありません。
それでも最後には、
「もう紙には戻れない」
というところまで、仕事のやり方が変わりました。
AIも同じだと私は思っています。
新しいやり方を会社に定着させるのは、決して楽な仕事ではありません。
では、なぜ経営者自身が生成AIを使うことが、会社への浸透にも関係するのでしょうか。私自身がAIを使って感じていることを、別の記事「なぜ私は「まず社長が生成AIを使ってみる」ことを勧めるのか」で詳しく書きました。
でも、それを乗り越えれば、それまでとは違う世界に行ける。
AIは新しい。
でも、会社の仕事を変えるという仕事は、新しくありません。
私は長年、その仕事に携わってきました。
もし「では、うちの会社では何から始めればいいんだろう」と思われたなら、そこから一緒に考えていければと思っています。

