「日報をAIで作りたい」から始めない
― AI導入の前に、本当に解くべき問題を見つける
「現場監督が、毎日の日報作成に1〜2時間かかっているんです。これ、AIで何とかできませんか?」
たとえば、ある建設関連企業の社長から、こんな相談を受けたとします。
生成AIは文章を作るのが得意です。現場から必要な情報を入力してもらい、決まったフォーマットに沿って日報を生成する。技術的には、それほど難しい話ではありません。
では、さっそく「日報作成AI」を作りましょう。
――私は、そうは進めません。
なぜなら、この段階ではまだ、「日報作成に1〜2時間かかっている」ということ自体が確認できていないからです。
1.「日報に1〜2時間かかっている。AIで何とかできませんか?」
社長がそう考えるのには、もちろん理由があります。
現場監督は忙しそうにしている。事務作業が多いという話も聞く。夕方になってもパソコンに向かっている。
そして、日報は毎日作らなければならない。
それなら「日報作成をAIで効率化しよう」と考えるのは、とても自然です。
しかも今は、生成AIを使えば文章作成をかなり効率化できます。
だから、
課題:日報作成に時間がかかる
↓
解決策:生成AIで日報を作る
と考えたくなります。
でも、ここで一つ確認しておきたいことがあります。
本当に、時間がかかっているのは日報なのでしょうか。
2.でも、私はすぐに「日報をAI化しましょう」とは言いません
社長の話を疑う、という意味ではありません。
むしろ、とても重要な情報です。
ただ私は、この段階では「答え」ではなく、まず確かめるべき仮説として扱います。
そこで、実際に日報を書いている現場監督に聞いてみます。
「日報を作るのに、実際どのくらいかかっていますか?」
「どんな作業が一番面倒ですか?」
「一日の中で、パソコンに向かって何をしていますか?」
すると、社長から聞いていた話とは、少し違った景色が見えてくることがあります。
3.現場で聞いてみると、日報は20〜30分だった
現場監督3人に確認してみると、日報作成そのものにかかっている時間は、平均すると20〜30分程度でした。
もちろん、短いとは言えません。
毎日のことですから、効率化する価値はあります。
しかし、社長が想定していた「1〜2時間」とはかなり違います。
では、現場監督は何に時間を使っていたのでしょうか。
さらに話を聞いていくと、こんな声が出てきました。
「前にやった似た工事の資料を探すのが面倒なんですよ」
「写真がどこにあるのか探すのに時間がかかります」
「元請によって書類の様式が違うので、また転記しないといけない」
「施工管理アプリは写真整理には便利なんですけど、会社のExcelにも入力するので二重入力になるんです」
ここで、最初に見えていた「日報」という問題の姿が変わってきます。
4.本当に時間を奪っていたのは、「日報の周辺」にあった
現場をもう少し詳しく見てみます。
すると、同じ工事名、住所、担当者、金額などを、複数の書類へ何度も手入力していることも分かりました。
過去の似た工事を探す。
必要な写真を探す。
元請ごとの書式へ転記する。
一度入力した工事情報を、別の書類へもう一度入力する。
施工管理アプリに入力したものを、社内のExcelにも入力する。
一つひとつは、それほど大きな作業には見えません。
ところが、こうした小さな作業が毎日、いくつも発生しています。
一方で、「AIで効率化できそう」という理由で候補に挙がりやすい会議議事録を調べてみると、会議自体が月2回程度しかない。
確かにAIを使えば議事録作成は速くなるでしょう。
でも、会社全体で見れば削減できる時間はそれほど大きくありません。
つまり、本当に見るべきだったのは、
「AIで何ができるか」ではなく、「どこで時間が失われているか」
だったのです。
5.もし、そのまま「日報作成AI」を導入していたら
ここで、最初の相談どおりに進めていた場合を考えてみます。
生成AIを使って、日報作成を効率化する。
20〜30分かかっていた作業が、10分になったとしましょう。
一定の成果は出ます。
社長から見れば、
「AIを導入した」
という分かりやすい成果にもなります。
しかし、現場ではどうでしょう。
過去の工事資料は、相変わらず探さなければならない。
写真も探さなければならない。
元請ごとの書式への転記も残っている。
工事名や住所などの再入力も残っている。
施工管理アプリとExcelへの二重入力も残っている。
つまり、
AIは導入された。でも、思ったほど仕事は楽にならない。
ということが起こり得ます。
これは生成AIの性能の問題ではありません。
解こうとした問題が違っていたのです。
6.「何をAI化するか」の前に、「どこで仕事が止まっているか」を見る
私は、AI導入の相談を受けたとき、「何をAI化したいですか?」だけを聞いて終わりにはしません。
もちろん、経営者が感じている課題は重要な出発点です。
ただ、そこから一歩進んで、
実際にはどんな仕事が行われているのか。
誰が、どこで困っているのか。
同じ情報を何度も入力していないか。
探すことに時間を使っていないか。
すでに導入したシステムが、逆に二重作業を生んでいないか。
そうした仕事の流れそのものを見ます。
経営者から見える会社と、現場から見える会社は、少し違うことがあります。
だから、まず経営者の話から仮説を持つ。
そして現場で確かめる。
一方で、経営者自身が生成AIを使い、その可能性と限界を知っておくことにも意味があります。それは「AIで解決する」と最初から決めるためではなく、経営課題に対する選択肢を増やすためです。この点は「なぜ私は「まず社長が生成AIを使ってみる」ことを勧めるのか」で詳しく書いています。
必要なら、最初の仮説を捨てる。
そのうえで初めて、
「では、どこを変えるのが一番効果的なのか」
を考えます。
AIは、その後です。
7.日報をAI化しない、という結論もあり得る
AIの相談を受けたからといって、必ずAIを導入する必要はありません。
日報作成に本当に大きな時間がかかっているなら、AIで効率化すればいい。
でも、過去資料を探す時間の方が大きいなら、まず情報の整理や検索方法を見直した方がいいかもしれません。
同じ情報を何度も入力しているなら、AIを使う前に、そもそも一度入力した情報を使い回せる仕組みにした方がいいかもしれません。
施工管理アプリとExcelの二重入力が問題なら、ツール同士の役割や業務フローそのものを見直す必要があるかもしれません。
もちろん、その解決策の中でAIが大きな力を発揮することもあります。
でも、順番を逆にしたくありません。
AIで何ができるかを考えて、そこに会社の仕事を当てはめるのではない。
会社の仕事を見て、本当に解くべき問題を見つけ、その解決にAIが有効なら使う。
私たちが目指しているのは、AIを導入した会社を増やすことではありません。
AIも含めた新しい手段を使って、仕事を良くし、会社の成果につなげることです。
それが、Southern Partnersの考える
「AIを、成果につなげる。」
ということです。
「AIで何ができるか」が決まっていなくても、ご相談ください
「AIを導入したいけれど、何から始めればいいか分からない」
それで構いません。
むしろ、
「同じことを何度も入力している」
「必要な資料を探すのに時間がかかる」
「社員がいつも忙しそうだけれど、何に時間を取られているのかよく分からない」
そんな話からで十分です。
最初からAIの使い方を決めるのではなく、まず、どこに本当に解くべき問題があるのかを一緒に整理する。
そこから始めます。

