創薬研究のプロジェクトスタート
今日は、創薬研究の新しいプロジェクトがどのようにして立ち上げられるのか、について書いてみたいと思います。企業における研究のイメージが伝わってくれると良いのですが。
創薬研究の新たなプロジェクトを立ち上げるに当たっては、実に多様なアプローチがあるのですが、とても大雑把に分けると以下の3つになるかと思います。
考え方によって、同業の方には同意いただけない部分もあるかもしれませんが、その点はご容赦ください。
1.対象疾患ありきのアプローチ
2.ターゲット分子ありきのアプローチ
3.ドラッグリポジショニング
これらについて概説してみたいと思います。
まず『1.対象疾患ありきのアプローチ』ですが、この方法では、まず最初にどんな疾患の薬を開発するのかを決めてしまいます。
例えば抗がん剤の開発が得意な会社だったら、肺がんとか胃がんなどをピックアップして、その疾患を適用とする薬の開発を始める、ということを先に決めてしまいます。
一口に肺がんや胃がんといっても実に様々な種類があって、がんのできる部位やがん細胞の性質によってとても細かく分類されています。
そのように多様な種類のあるがんの中で、外科的な処置(手術で取り除いてしまうような処置)では治療できず、その種のんがんに対する薬もまだない、といったものが新薬開発の対象になります。
対象となるがん種が決まったら、そのがん種に対して有効だと思われるターゲット分子を探します。
ここでいうターゲット分子とは、がんの増殖の原因となっている、あるいはがん細胞が増殖するのに必要なタンパク質のことを指します。
酵素だったり、細胞表面の受容体だったりするケースが多いかと思います。
ターゲット分子が決まったら、その分子に作用してがん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を死滅させる機能を持った有機化合物や抗体を探します。
このようにして新薬開発のプロジェクトがスタートします。
次に『2.ターゲット分子ありきのアプローチ』について述べてみたいと思います。
ヒトでは約3万種類の遺伝子があって、その一つ一つから別の種類のタンパク質が合成されて生体内で機能しています。
日々これらのタンパク質について、世界中で研究が進められていて、新たな機能の発見や、疾患との関わりが論文や学会で報告されています。
ここで例えば、ある酵素がある種の肺がんで、がんの増殖を促進する作用が発見、報告されたとします。
その報告を見た研究者は、その酵素を阻害する化合物を見出せば、新たな抗がん剤が出来るのではと考えて、阻害剤を探索するプロジェクトを立ち上げます。
ターゲットありきのアプローチは、このようにして産声を上げるのです。
最後に『3.ドラッグリポジショニング』について説明します。
ひと昔前に大流行して、これに取り組むベンチャー企業が雨後のたけのこのように乱立した時期がありました。
最近ではだいぶ落ち着いてきましたが、この手法で見出された多くの古い薬が、今も新たな適応疾患を対象に臨床試験が行われています。
この手法では、既に何らかの適応疾患で医薬品として承認された化合物を、別の疾患を対象として開発を進めるという取り組みが行われます。
この手法のメリットは、ヒトに投与した時の安全性(毒性)が既に明らかになっていることです。
安全性が担保されていれば、新たな疾患で薬効さえ認められれば、薬になる確率がとても高くなることが大きな魅力です。
以上、製薬会社においてどのようにして創薬研究が立ち上げられるか、ということについて概説してみました。
プロジェクト開始のやり方は会社のカラーがよく出るところで、ある会社では新規プロジェクトの立ち上げを専門に担う部署があったり、他の会社では現場の研究者がプロジェクト開始を提案するようなケースもあります。
製薬会社の研究職を目指す方は、志望する会社がどんなやり方で創薬研究を始めるのか、OB訪問などで聞いてみるのも面白いと思います。