製薬研究職の転職・キャリア戦略|元研究所長・採用面接官の視点
製薬会社で研究職として働いていると、キャリアについて考えるタイミングが何度かあります。
若手の頃は、目の前のテーマに集中していればよい時期があります。
実験、解析、会議、報告、論文、特許、プロジェクト対応。やることは多いですし、まずは研究者として力をつけることが大事です。
ただ、30代、40代に入ってくると、少し景色が変わります。
このまま研究職として進むのか。
マネジメントに向かうのか。
CMC、臨床開発、薬事、MA、品質、事業開発などへ広げるのか。
あるいは、社外の選択肢も見ておくべきなのか。
こういう問いが、だんだん現実味を持ってきます。
私は製薬会社の研究所で長く働き、研究所長として研究組織を見る立場も経験しました。また、新卒採用やキャリア採用の面接にも関わってきました。
その立場から見ると、製薬研究職のキャリアは、本人が思っているよりも選択肢があります。
一方で、選択肢があるからこそ、何を軸に考えるかを間違えると迷いやすい領域でもあります。
この記事では、製薬・バイオ研究職経験者が、転職や今後のキャリアを考える時に最初に整理しておきたいことをまとめます。
製薬研究職のキャリアは、研究所の中だけで完結しない
製薬研究職のキャリアは、研究所の中だけで完結するとは限りません。
もちろん、研究職として専門性を深めていく道はあります。創薬研究、薬理、薬物動態、毒性、製剤、分析、Bioinformaticsなど、それぞれの領域で専門家として評価される人もいます。
一方で、研究職の経験は周辺領域にも広がります。
たとえば、CMC、臨床開発、薬事、MA、品質、製造、事業開発、製品戦略などです。
研究所にいると、どうしても研究テーマ中心にキャリアを考えがちです。
しかし会社全体で見ると、研究経験を持っている人が他部門で重宝される場面はあります。
研究の言葉が分かる。
データの限界が分かる。
プロジェクトの初期段階で何が起きていたかを理解できる。
研究者と他部門の間に立てる。
こういう経験は、研究所の外でも意味を持ちます。
ただし、どの方向へ広げるべきかは人によって違います。
研究職として残るべき人もいます。
CMCや臨床開発へ広げた方がよい人もいます。
マネジメントより専門職の方が合う人もいます。
大事なのは、今いる場所だけで自分の可能性を決めないことです。
社内評価と社外評価は同じではない
製薬研究職がキャリアを考える時に、かなり大事なのが社内評価と社外評価の違いです。
社内評価は、社内の文脈の中で積み上がります。
どのテーマを担当してきたか。
どの上司やチームで働いてきたか。
社内でどのプロジェクトが重要だったか。
どの部署との関係が深かったか。
こうした背景を周囲が知っている状態で評価されます。
一方、社外評価は違います。
社外では、最初は職務経歴書と面接で伝わる情報がほぼすべてです。
社内では当たり前に伝わっていたことも、社外では説明しなければ伝わりません。
逆に、社内では地味に見えていた経験が、別の会社では高く評価されることもあります。
たとえば、開発後半のトラブル対応、他部門との調整、解析基盤の立ち上げ、品質や薬事との接点などは、会社によってはかなり価値があります。
つまり、自分の経験の価値は、今の会社の中だけでは判断しきれません。
ここを理解しておくと、転職するかどうかに関係なく、自分のキャリアを考えやすくなります。
CMC・Bioinformaticsのような専門性は、外でどう見られるのか
製薬研究職の中でも、CMCやBioinformaticsのような専門性は、社外評価を考えるうえで分かりやすい例です。
CMCは、研究から製造、品質、薬事へつながる領域です。
研究室で良いデータが出ただけでは、医薬品は製品になりません。再現性のある製造、品質管理、スケールアップ、申請に耐えるデータなど、開発後半の現実を知っている人材は、採用側から見てもイメージしやすいです。
Bioinformaticsも同じです。
創薬研究では、扱うデータの量も種類も増えています。データを扱えるだけでなく、Wetの研究者とDryの解析をつなげる人は、製薬会社の研究現場で重要になります。
ただし、CMCやBioinformaticsの経験があれば、それだけで評価が決まるわけではありません。
採用側は、その専門性が自社のテーマや課題にどう合うのかを見ます。
専門性が高い人ほど、どの会社でもそのまま通用するように見えます。
でも実際には、会社側のニーズとの接点が大事です。
この点は、別記事で詳しく整理しています。
CMC・Bioinformatics経験者は製薬転職でどう見られるのか|元研究所長の採用視点
採用側が見ているのは、研究テーマ名だけではない
キャリア採用の面接で、採用側が見ているのは研究テーマ名だけではありません。
もちろん、専門性は重要です。
ただ、それだけでは判断できません。
採用側は、次のようなことも見ています。
- その専門性が自社の課題に合うか
- 研究テーマを他者に分かる言葉で説明できるか
- 周囲と協働できるか
- プロジェクト全体の中で自分の役割を理解しているか
- 入社後に担当範囲を広げられるか
- 研究へのこだわりと組織で働く柔軟性のバランスがあるか
研究職の採用は、企業側にとっても慎重になる領域です。
専門性が高い人ほど、合う部署やテーマが限られることがあります。
入社後にミスマッチが起きた時、配置転換が簡単ではないこともあります。
だから、採用側は「優秀そうか」だけでなく、「この人は自社で活躍するイメージが持てるか」を見ています。
この視点を持っておくと、職務経歴書や面接で何を伝えるべきかが変わります。
職務経歴書と面接では、経験の見せ方が変わる
製薬研究職の職務経歴書では、研究テーマや技術名を並べるだけでは不十分です。
採用側が知りたいのは、過去の研究テーマそのものだけではありません。
その経験を通じて、何に貢献できる人なのかです。
たとえば、同じCMC経験でも、分析、製剤、プロセス、品質、薬事との接点によって見え方は変わります。
同じBioinformatics経験でも、単に解析ができる人なのか、研究判断に貢献できる人なのかで見え方は変わります。
面接でも同じです。
自分が話したい研究と、面接官が確認したいポイントは一致しないことがあります。
研究者は、自分の研究の細部を話したくなります。
もちろん、それは大事です。
ただ、採用側は同時に、入社後の姿を想像しています。
この人はチームで働けるか。
自社のテーマに入れるか。
専門外の人にも説明できるか。
会社側の課題を理解できるか。
こうした点を意識して、経験の見せ方を整える必要があります。
転職エージェントに相談する前に整理しておきたいこと
転職エージェントに相談するかどうか迷う人もいると思います。
相談したら、すぐ転職前提で話が進むのではないか。
まだ転職すると決めていないのに相談してよいのか。
自分の経験で相談する意味があるのか。
こういう抵抗感は自然です。
ただ、相談は転職を決めるためだけに使うものではありません。
自分の専門性が社外でどう見られるのかを確認する。
職務経歴書で何を前に出すべきか整理する。
今の会社に残る判断をするために、外の選択肢を知る。
そういう使い方もあります。
ただし、相談前には少し整理しておくとよいです。
- これまでの研究テーマと自分の役割
- 得意なことと、今後広げたいこと
- 今の会社に残る場合の不安
- 外を見るなら確認したいこと
- 勤務地、働き方、職種の許容範囲
このあたりを整理しておくと、相談の質が上がります。
このテーマは、公開済み記事で詳しく整理しています。
製薬研究職は転職エージェントに相談すべきか|元研究所長の採用視点
このサイトで順番に読んでほしい記事
このサイトでは、製薬・バイオ研究職経験者が、自分のキャリアを整理できるように記事を作っています。
まず読んでほしいのは、次の二つです。
CMC・Bioinformatics経験者は製薬転職でどう見られるのか
CMC、Bioinformatics、創薬研究、分析、製剤、プロセスなどの経験がある方は、自分の専門性が社外でどう見られるかを知る入口になります。
CMC・Bioinformatics経験者は製薬転職でどう見られるのか|元研究所長の採用視点
製薬研究職は転職エージェントに相談すべきか
転職を決めていないが、社外評価や選択肢を確認したい方はこちらです。
製薬研究職は転職エージェントに相談すべきか|元研究所長の採用視点
今後は、採用側が見ている市場価値、職務経歴書、面接、研究職から周辺職種への広げ方についても整理していきます。
まとめ|転職を決める前に、自分の立ち位置を整理する
製薬研究職のキャリアは、研究所の中だけで完結するとは限りません。
研究職として専門性を深める道もあります。
CMC、臨床開発、薬事、MA、品質、製造、事業開発へ広げる道もあります。
社外の選択肢を確認したうえで、今の会社に残る判断をすることもあります。
大事なのは、転職するかどうかを急いで決めることではありません。
まず、自分の立ち位置を整理することです。
社内評価と社外評価は同じではありません。
採用側が見ているのは、研究テーマ名だけではありません。
専門性がある人ほど、それをどう伝えるかが重要になります。
今すぐ動くかどうかは別として、自分の経験が外でどう見られるのかを知っておくことは、今後のキャリアを考えるうえで役に立ちます。
迷っている段階だからこそ、まずは情報を整理する。
そのための入口として、このサイトを使ってもらえればと思います。
