企業研究者に求められる能力(その2)
前の投稿でも述べましたが、研究そのものを遂行する能力は十分ある、という前提で、企業研究者に求められる能力について述べたいと思います。
新薬の探索研究は、異なる専門性を持ったエキスパートが集まって、プロジェクト制で開発が進んでいく、というお話をしました。
これを滞りなく円滑に進めるためには、各研究者が自分が担当する業務のスケジュール管理をしっかり行う必要があります。
ここで述べる企業研究者に求められる能力とは、担当業務を時間的に管理する能力、という事になります。
どういうことか説明していきましょう。
新薬のタネとなる化合物は、まず初めに有機合成系の研究者によって産み出され、次にターゲット分子に作用するかどうかをチェックされ、ある一定の薬効発現が期待できるものは薬物動態や簡易な毒性解析に回される、というのが一般的な流れとなります。
さらに化合物の溶解度や安定性を調べたり、実験動物を用いて毒性がどの程度あるのかを見極めたりと、あらゆる角度から医薬品たりうるかどうか、という観点でチェックを受けていきます。
教科書的には、上に述べたような順番で、それぞれの試験項目で定められた足切りラインを超えるかどうか評価を進めていきます。
そうやって足切りラインを超えた化合物のみを次のステップに進めるというやり方で、順を追って化合物を選別していきます。
例えば酵素阻害をメカニズムとして持つ抗がん剤開発なら、
①合成
②In vitoの酵素阻害チェック:ある一定の阻害活性をもった化合物のみ次のステップに進める(以下同じ)
③培養細胞を用いた増殖阻害(あるいはアポトーシス)評価
④溶解度、物性チェック
⑤代謝酵素による代謝実験、膜透過性などのADMEチェック
⑥代謝酵素阻害、hERG阻害などのIn vitro 毒性チェック
⑦In vivo 病態モデルを用いた薬効薬理試験
⑧げっ歯類短期毒性試験
のような感じです。
実際には、この通り順番に1ステップずつやっていくと膨大な時間がかかってしまうので、いくつかを並行して走らせたり、端折ったりしながら、特に①から⑥までを如何に効率的に速く回すか、という事を常に考えながら仕事を進めていくことになります。
ここで評価の対象となる化合物は、当然今までこの世に存在しなかった化合物ばかりなので、とにかくやってみなければ判らないことの連続です。
本当にいろんなハプニングが起こりますが、それでも各研究者は、自分の持ち時間で必要なデータを出すことを求められます。
誰か一人でもスケジュールを守れなければ、プロジェクト全体が遅延するからです。
一人で自分の研究テーマを持って研究しているなら、例えば実験で何かミスをしても、”しょーがない、明日やり直すか”で済むことが多いと思いますが、プロジェクト制でチームを組んで仕事をしていると、それでは済まない場合も多々あります。
ハプニングが起こっても自分の持ち時間は守る。
これを達成するには、あらゆるケースを想定して、ワーストケースでも締め切りには間に合うように仕事を進めるタイムマネジメント、自身のスケジュール管理が求められる、という事です。